「告白」はちょっとすごい
2010年 07月 16日
この作者は協力隊OB。「告白」の中に出てくる熱血教師が「若いころ海外でぶらぶらしてHIVになった」というくだりがあるが「これは協力隊員の経験からかなー」と思った。隊員にとって帰国後のHIV検査は全員がちょっと緊張したことを思い出した。アフリカや中国など国を問わず海外ではHIV感染にかかる可能性はいつもあるからだ。
湊かなえさんは「告白」が本屋大賞を受賞した時、副賞として贈られる10万円の図書券で本を買い、その本を全て協力隊のモルディブ(フィジーかもしれない)の隊員連絡所に寄贈した。「隊員時代よく連絡所で本を読んだので、そのお返し」だという。協力隊事務局でお世話になった時、湊さんと同じ時期に同じ国にいた元隊員が事務局で働いていて、湊かなえさんがどんな人だったかをきいた。「あんなおどろおどろしいものを書くとは思えないフツーの小柄な女の子だった。料理が上手でよく食べさせてもらった」とのこと。たしかに写真を見てもフツーの主婦な感じ。映画版松たか子の髪型は作者をまねたのだろう、こういう髪型をしてAラインのベージュのロングスカートをはいた図書館が似合うタイプの女性だ。
「告白」は、湊さんが教師経験があり、また母親であるから書けた小説だと思った。本編で描かれている中学生達の幼さ素直さは小説の中の作られたものではなく、実際に子供と接してるからこそのリアリティがある。「なぜ妻が妊娠してから夫が健康診断にいくのか?そもそも教師をしているならば健康診断は毎年受けているのではないか?HIV血液検査もその時に受けていないのか?」等ちょっと不思議に思ったところもあったけど、文句なしに面白い。村上春樹「1Q84」がオームを中心とした80年代のアメリカで流行ったカルト宗教の問題、エホバの証人、真光教の勧誘、多重人格者、訪問押し売り販売の被害、受験全盛期で代ゼミなどの塾に名物教師がたくさんいたこと、スポーツジムが流行りだしたこと、そして最近あった幼児をゴミ箱にいれビニールでフタをして殺した親のこと等をモデルにして描いている一方、湊かなえは「告白」の中で1997年の神戸須磨連続児童殺人事件(酒鬼薔薇聖斗事件)をモデルとしている。11歳の少年の首が小学校の校門におかれて、その口には犯行文がはさんであった、あの事件だ。犯人は当時14歳の少年。少年犯罪が増える中、刑法は16歳以上を14歳以上に年をさげた。そのことをもとに「告白」では犯人を刑法によって裁かれない13歳の少年に設定。他にも10代の自殺(そういえば80年代は芸能人をはじめ、首つりや投身自殺がとても多かった)、いじめや学級崩壊、モンスターペアレンツ、教師の処罰問題などを扱っている。
湊かなえさんは今年37歳。淡路島で専業主婦(今は売れっ子小説家だけど)。二人の子育てをしながら、子供が寝た12時過ぎからミシン台の上で小説を書いているという。35歳の時にこの「告白」が大ブレイクした。最近にはめずらしいほどのサクセスストーリーだ。私を含め勇気付けられた人はたくさんいるはず。