東博「ボストン美術館 日本美術の至宝」展 感想3 平治物語絵巻
2012年 04月 18日
戦いの様子を描いた絵巻なのは見ればわかる。車輪を回し突進する牛車、鎧を着た武士、素足で戦う兵士たち。そして逃げ惑う女達。血と炎と煙に巻かれて、地獄絵図の様な光景が繰り広げられている。
この絵巻は、藤原信頼や源義朝らが平氏に不満を持って起こした1159年12月4日深夜に行われたクーデーターを描いているそうだ。信頼らは上皇をとらえ、大内裏で監禁。その騒動の様子を描いたのがこの絵巻物らしい。平治物語は源氏よりの見方で語られているらしいが、事件から100年ほどあとに描かれたこの巻物では、源氏は信西(藤原通憲)を襲う簒奪者として描かれているように見える。
幅40cm程の巻物。兵士のそれぞれ顔の大きさは、私の小指の先よりも小さいのに、描写は生々しく生気がこもっている。気持ちが悪い程リアルだ。絵師は戦いに参加した事があるにちがいない。画家ゴヤは長く続く戦争が行われる日々を記者のように戦闘の後の光景を描いたが、この絵巻から伝わってくるのは実際の騒動の空気だ。
ゴヤのスペイン戦争の絵の中では、女達は犯され殺され、死体となってからも犯されていた。アウシュビッツでは、もうすぐ連合軍が来る、とナチス軍は証拠隠滅のために生き残ったユダヤ人達を殺して埋めてしまおうとした。どちらも一夜よりも長い時間が必要だ。このクーデーターの場合、邸には火がついている。女達を犯してる時間はない。簒奪者一行は、連れ去る女以外は皆殺し、高価な着物をおいはがしたのかもしれない。炎と血と内着の赤が狂気を物語っている。
もしくは、作者が「これは恐怖におびえる表情ではない」と納得できず自らすべて消したのかもしれない。
この絵巻を眺めながら、この絵巻を描いた絵師について思いを馳せた。この絵師はこの絵巻物をどの位の期間で描いたんだろう?どんな力が及んで悪魔のような地獄絵図の構成を思いついたんだろう?この作品を描いた後、どんな作品を描いたんだろう?そしてどんな風に死んで行ったんだろう?
芥川龍之介の「地獄変」を思い出す。絵師もこの地獄に身を絡めとられたに違いない。
史実は、信頼らは一度は権勢を握る。しかし熊野から引き返した平清盛に敗れ、信頼は処刑、義朝も暗殺。東博が所蔵する次の絵巻物「六波羅行幸巻」では、内裏に幽閉された二条天皇が脱出を図り、清盛の六波羅邸に逃れる場面が描かれているそうだ。東博で特別展に合わせて展示されるらしいから、よく見ておきたいと思う。
追記:もう一度よくみたら、井戸のそばに血の涙を流した女が描かれてました。ひょえ〜こわいよ〜〜っ!!