人体デッサンの今昔・久米桂一郎の作品がすばらしい
2012年 07月 25日
私の数少ない受賞歴の中のなかにある「久米桂一郎賞」。
久米桂一郎財団(?)が芸大の油絵科1年生に贈る賞。教官室に呼ばれて「ご遺族の好意で毎年続いている賞だから、きちんとお礼と今後の気概をご遺族に送るように」と言われた覚えがある。
「久米桂一郎という人は、芸大の教官をしていたらしい」ということ以外、久米桂一郎については何も知らなかった。今回東博の展示で、解剖学の指導にあたっていた事を初めて知る。
久米桂一郎のデッサンは非常に美しく正確で、まさに神業。人体の骨格と筋肉を描き出す力は、黒田清輝より数倍上に見える。だからこそ「骨格、筋肉、人体美、空間」を描くために久米は男性を描き「量感、女性美、影」を表したい黒田は女性を好んで描いたのだろう。結局日本では黒田流の好みが通ったのか?日本ではヌードデッサンでは男性よりも女性の方がずっと多い。公募展でも男性ヌードを描いた作品というのは見た覚えがない。
芸大の美術解剖学。懐かしい。
1年目で骨格学の授業を受講し、2年目は筋肉学を受講すると東大で死体解剖に立ち会える。恐いもの見たさで受講する学生は多かった。見学するのはホルマリン漬けになった献体。献体された方が、献体を決意してから死後献体になるまでのいきさつと、「君たちには責任がある。しっかり勉強なさい。」と語る、東大の解剖室に不気味なほど響く、高橋涁教官の低い声まで思い出す。
東博では、黒田が義母にあてた手紙も展示されている。黒田の場合は生死体を解剖してるみたいだ。「死体解剖は最初は気持ち悪いと思ったけど、2度目になるとどうということもない」という内容。美大生なんて今も昔もそんなにかわらない。きっと。
美しい久米桂一郎のデッサンを見ながら、「美術の理想」についてあらためて想いを馳せた。久米桂一郎の人体画(特に男性デッサン)は本当に美しいので必見!