毎日午前2時頃、家の前の坂を牛乳配達の車が猛烈な勢いで通る。音がすごいので目が覚めるし、外に出ている猫が車に轢かれてはいやしないかとヒヤリとする。
「今日こそ運転手に直接注意しよう」と思い夜中2時に起き、道路に椅子を出して待つこと2時間。今日に限ってこない。この間、家の中に回収した猫は外にいる私に喜んで二匹とも外出、小町の散歩まで付き合った。夏の真夜中は涼しくて非常に気持ちがいい。風が結構強く蚊もいない。家の中に帰ってこない猫の気持ちが理解できる。
ぼーっと物思いに浸りながら景色を眺めたり、コーヒーを飲んだり。街灯もあるので文字は読める程度明るい。日記を書こうかと思って持ちだしたけど、誰かがきても「なぜ35歳女が真夜中に椅子に座って道路で日記を書いてるのか」を説明できないのでやめた。簡単なクロッキーをしてみる。考えてみたら30年以上この家に住んでいるのに家の周りをクロッキーをしたことは一度もない。
4時になり空が白地んできた頃、鳥が激しくさえずり、新聞配達のバイクの音も聞こえ出した。もう今日は牛乳配達は来ないのだろう。カメラをもって近所まで散歩に出ることにした。
地元の朝焼けがこんなに凄いものだとは知らなかった。考えてみたら朝日を見るためにベランダに出たことはあるけれど、家を飛び出たのもはじめてだ旅行先では朝日を見るためにあるいは、夜行汽車や早朝のフライトに乗るために午前4時頃見知らぬ街を歩いたことはあったけど(香港では午前3時にクーロンの安宿をでたら巡回中の警察に尋問を受けたこともあった)、この時間に外を歩いているのは旅行者か悪者か変人、つまりは暇がある人達だけだ。
世界は神秘的なピンク・グレーの色彩に包まれ、オレンジ色と黄金色の太陽の光がはじけるのを待ち構えている。すこし離れた場所にいき空を見上げると、そこには大きな虹。きっと誰も見ていない午前4時半の虹。ミステリアスで神秘的な空気に包まれた空想と想像力にあふれた世界の中で、まるで神様からきめられた約束事みたいにそこに在る。
午前5時になるとちらほら散歩する人達とすれ違った。ぐんと朝っぽい感じになる。人の動きが急に増える。鳥のさえずりは落ち着き、代わりに車の音が一日を動かす。遠くに行かずとも、とても非日常の時間を体験した朝だった。