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美術家が対峙する狂気、飢餓、欲望と美と憧れ・祈りとは

美術家が対峙する狂気、飢餓、欲望と美と憧れ・祈りとは_c0192202_11172717.jpg飯田橋の「セルバンテス文化センター東京」で、ゴヤの戦争をテーマにした版画展を展示している。「ゴヤが見た戦争:版画集『戦争の惨禍』と報道写真」だ。セルバンテス文化センターはスペイン国営のカルチャーセンターで、スペイン語教室を開いたり、文化を紹介したりしている。

ゴヤ。スペインの宮廷画家。生前から成功をおさめた数少ない画家として有名だ。宮廷画家として王族一家を描く一方、「裸のマハ」等あでやかな女性を描く。また戦争に関心の高い作家としても有名だ。晩年の作品は聴力が衰えたこともあったというが、絵の背景に大量の黒を塗り、人間の心の闇を描いた作家としても知られている。本国スペインでは、ベラスケス、ピカソやミロ以上に尊敬されている画家だ。

美術家が対峙する狂気、飢餓、欲望と美と憧れ・祈りとは_c0192202_11164884.jpgとまあ、これくらいのありきたりの知識が私にあった。でもセルバンテスで展示されている版画の内容は想像を大きく超えていた。なんだこれは。これをあの美しい天使や女性を描いたゴヤの作品?現実社会がこれほど凄惨な時に彼はああいった美しい作品をも描いていたのか!

ゴヤは的確な線で描く。処刑されてゆく男たちの姿を。積み重なる死体の山を。吊るされた死体達を。街中で強姦される女達を。死んだ女の死体を犯すために台車に乗せていく男たちの姿を。あざけるためだけに、敵兵の死体を裸にし、性器を切り取る男達の姿を。気が狂うほどの現実を、正確なデッサン力と緻密な線で。一枚の中にできるだけ多く、枚数を大量に。時に動物の姿を借りながら描いてゆく。迷いなく。何が彼をこれらの版画制作にかきたてたのだろう。「絵描きの頂点にいる自分こそが描き、後世に戦争の悲惨さを伝えなければならない」という責任感か?それとも画家の呪わしき好奇心か?写真技術はすでにあった。彼が全てを写し取らなくても後世に残す方法はすでにある。それでも彼は絵描きとして戦争と対峙した。

美術家が対峙する狂気、飢餓、欲望と美と憧れ・祈りとは_c0192202_11175277.jpg宮廷という当世の一番きらびやかな場所で、最高の栄誉ある仕事に就き、美しい作品を描く一方で、ゴヤは人間の醜さ、愚かしさ、死体の腐る酸鼻な劣悪な環境をも熱心に描いた。この画家の心はそれらの事象をどう取り入れられたのだろう。普通ならアップアップするに違いない。

フランシスコ・デ・ゴヤ。200年程前の時代を生きた画家。人は自分には理解できない、とうていできないことをしでかす人のことを「偉大だ」と表現するという。それにのっとるならゴヤはあまりに偉大な超越した画家だったと思わずにはいられない。
by office-maki | 2011-04-07 11:13 | アートな話 | Comments(0)

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