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26年目の答え合わせ

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大学一年の時使った教科書の絵画技法書を見てたら、試験の問題用紙が出てきた。佐藤一郎先生の技法の試験だ!難しくてさっぱりわからなかったな〜。26年ぶりに答え合わせを試みた。

平成六年度絵画技法史材料論 1991年1月24日
問題の番号部分に該当する語を【 】内の選択肢のうちから選んで回答用紙に記入しなさい。
15世紀フランドル派の例えは、1【ルーベンス、ファン・アイク、レンブラント】の2【ゲントの祭壇画、十字架降下、ユダヤの花嫁】に見られる特質は、3【スカンブル、グラッシ、インパス】の技法を駆使した絵肌の4【可塑、透明、不透明】性にある。【2】を例にその構造的な特徴を見てみよう。支持体は、5【ポプラ、オーク、麻布】の6【板、カンバス】で、その上に【石膏、白亜、鉛白】を8【膠、乾性油】で練った【7】地が施され、9【平滑、粗面】に仕上げられている。描画は、まず10【テンペラ、水彩、油】絵具か11【テンペラ、水彩、油】絵具で12【下素描、下層描き】が綿密に決められている。この【12】に前後して【8】や13【膠、乾性油】で絶縁処理が施される。絶縁層は【7】地のような14【吸収、非吸収】地に【11】絵具で描く場合、絵具層の固着や発色をよくする為に欠かせない処置であり、【4】で光沢のある絵肌を支える重要な役割を担っている。【3】を駆使した彩色の特徴は、赤と緑に際立っている。【2】の洗礼者ヨハネ像の緑色のビロードの衣装を例に見てみよう。クジャク石を砕いて作る15【ラピスラズリ、マラカイト、アズライト】という緑色顔料と有機の黄色を混ぜた黄緑色の下層の塗りが施される。その上に、銅を樹脂液に浸して作る16【樹脂酸銅、塩基性炭酸銅】を上層に【3】で塗り重ねて微妙に移行する深い色調が生み出される。17【グリザイユ、ヴェルダイユ、シラージュ】と呼ばれる無彩色の単色画は、いわば祭壇画の脇役的存在である。ここでは赤や緑の階調や質感表現に必須の18【赤色レーキ、ヴァーミリオン】や【16】による【3】の技法はほとんど使われることはない。しかし、【7】地に【13】を吸収させたり、19【灰色、褐色】を塗るなど、地を中間調子として利用している、16−17世紀の油画のほとんどが施した地の上に描かれるようになることを考える時、その原型が【17】にみられることは興味深い。なぜなら、この【20】との対応関係によって、不【4】、半【4】、【4】、という質的変化を伴った明暗表現を核とした油画の技法が確立していくからである。次に、21【ティツィアーノ、ルーベンス、レンブラント】の「サムソンとデリラ」を思い出してみよう。この絵の支持体は【5】の【6】であり、地塗りは【7】地である。ここまでは世紀以来の伝統を継承しながら【21】独自の縞目のある【20】が施されている。22【赤外線、紫外線、X線】写真で見ると、明部に対して23【鉛白、白亜、亜鉛華】が的確な筆触で置かれ、24【インパスト、スカンブル、グラッシ】されているのがわかる。15世紀初めにかけて【11】画の支持体として25【板、カンバス】が新たに登場した。その初期の使用例は26【フランドル、ベネティア】派の作品に多い。当時【26】は交易によって栄え、その富と権力を象徴するかのように多くの大画面の【11】画が制作された。従来、【11】画や【10】画の支持体は【6】であった。その反りや狂いを最小限にするためには、27【柾目、板目】の良質材が必要であった。材料の供給源には自ずと限界があった。このような状況で、交易の主役であった帆船の帆布、すなわち【25】が、大きさ重さ巻いて運搬できる便利さなどの「点で好都合な支持体として使用されたのも自然な成り行きであったに違いない。28【ティツィアーノ、ルーベンス、レンブラント】の晩年の作品にみられる【24】された筆触は、現代の感覚でみてもあまり隔たりを感じさせない【11】絵具の29【可塑、流動、透明】性を示している。例えば「マタイと天使」の【22】写真に写し出されたマタイの顔は、コントラストを強めた白黒写真に近い表情を示している。ここで映像化された【23】の用法は、明部から移行部への調子を筆触で一気に表現している。その大胆で直接的な筆触の切れ味は他の追随を許さない。ところで、東京芸大蔵の高橋由一の「鮭」もまた、こうした技法の延長線上にあると言える。「鮭」の支持体は30【板、麻布、紙】で、褐色に着色されている。背景は、この地色を基調に【4】な暗褐色の調子を加えて仕上げられている。ごく薄い層で塗られ、【30】の地肌がそのまま見える。鮭そのものも、極めて見事な手順でよどみなく仕上げられている。なかでもこの作品の際立った特徴は、ウエット・イン・ウエットの技法によって表現された筆触の見事さにある。最も薄塗りの尾の付け根から尾びれにかけての流れるような筆遣い、最も厚塗りの腹部や腹ひれの【11】絵具の【29】性を生かした筆触。これらは筆力に溢れ、細部の描写に陥ることなく、大らかなリズムの中で息づき、自立した形態と化している。(一切画像などなし!)
スカンブル?グラッシ?インパス??樹脂酸銅、塩基性炭酸銅???今見てもわからない言葉だらけ。
さすが佐藤先生、点数を学生にくれる気が全くない!教科書に乗っている作品は一枚もなく、授業中のスライドを思い出さないと回答できない。その上、しっかりと理解していないと全く解けない。下がおそらくは解答。

15世紀フランドル派の例えは、ファン・アイクの「ゲントの祭壇画」に見られる特質は、グラッシの技法を駆使した絵肌の透明性にある。「ゲントの祭壇画」を例にその構造的な特徴を見てみよう。支持体は、オークの板で、その上に白亜を膠で練った白亜地が施され、平滑に仕上げられている。描画は、まずテンペラ絵具か油絵具で下素描が綿密に決められている。この下素描に前後して膠や乾性油で絶縁処理が施される。絶縁層は白亜地のような吸収地に油絵具で描く場合、絵具層の固着や発色をよくする為に欠かせない処置であり、透明で光沢のある絵肌を支える重要な役割を担っている。グラッシを駆使した彩色の特徴は、赤と緑に際立っている。「ゲントの祭壇画」の洗礼者ヨハネ像の緑色のビロードの衣装を例に見てみよう。クジャク石を砕いて作るマラカイトという緑色顔料と有機の黄色を混ぜた黄緑色の下層の塗りが施される。その上に、銅を樹脂液に浸して作る樹脂酸銅を上層にグラッシで塗り重ねて微妙に移行する深い色調が生み出される。グリザイユgrisailleと呼ばれる無彩色の単色画は、いわば祭壇画の脇役的存在である。ここでは赤や緑の階調や質感表現に必須の赤色レーキや樹脂酸銅によるグラッシの技法はほとんど使われることはない。しかし、白亜地に乾性油を吸収させたり、灰色を塗るなど、地を中間調子として利用している、16世紀の油画のほとんどが施した地の上に描かれるようになることを考える時、その原型がグリザイユgrisailleにみられることは興味深い。なぜなら、このインプリマテューラ地透層との対応関係によって、不透明、半透明、透明、という質的変化を伴った明暗表現を核とした油画の技法が確立していくからである。
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次に、ルーベンスの「サムソンとデリラ」を思い出してみよう。この絵の支持体はオークの板であり、地塗りは白亜地である。ここまでは15世紀以来の伝統を継承しながらルーベンス独自の縞目のあるインプリマテューラ地透層が施されている。X線写真で見ると、明部に対して鉛白が的確な筆触で置かれ、インパスト盛り上げされているのがわかる。15世紀末から16世紀初めにかけて油画の支持体としてカンバスが新たに登場した。その初期の使用例はベネティア派の作品に多い。当時ベネティアは交易によって栄え、その富と権力を象徴するかのように多くの大画面の油画が制作された。従来、油画やテンペラ画の支持体は板であった。その反りや狂いを最小限にするためには、柾目の良質材が必要であった。材料の供給源には自ずと限界があった。このような状況で、交易の主役であった帆船の帆布、すなわちカンバスが、大きさ重さ巻いて運搬できる便利さなどの点で好都合な支持体として使用されたのも自然な成り行きであったに違いない。
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レンブラントの晩年の作品にみられるインパスト盛り上げされた筆触は、現代の感覚でみてもあまり隔たりを感じさせない油絵具の可塑性を示している。例えば「マタイと天使」のX線写真に写し出されたマタイの顔は、コントラストを強めた白黒写真に近い表情を示している。ここで映像化された鉛白の用法は、明部から移行部への調子を筆触で一気に表現している。その大胆で直接的な筆触の切れ味は他の追随を許さない。
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ところで、東京芸大蔵の高橋由一の「鮭」もまた、こうした技法の延長線上にあると言える。「鮭」の支持体は紙で、褐色に着色されている。背景は、この地色を基調に透明な暗褐色の調子を加えて仕上げられている。ごく薄い層で塗られ、紙の地肌がそのまま見える。鮭そのものも、極めて見事な手順でよどみなく仕上げられている。なかでもこの作品の際立った特徴は、ウエット・イン・ウエットの技法によって表現された筆触の見事さにある。最も薄塗りの尾の付け根から尾びれにかけての流れるような筆遣い、最も厚塗りの腹部や腹ひれの油絵具の流動性を生かした筆触。これらは筆力に溢れ、細部の描写に陥ることなく、大らかなリズムの中で息づき、自立した形態と化している。
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「サムソンとデリラ」が問題に出てくるのだけれど(画像は一切ない)、ルーベンスもレンブラントも「サムソンとデリラ」を描いているのに問題が専門家すぎる。教科書見ながら、ネットの力を借りても、2時間以上かかってようやく大体の答えを推測であげることができた。あの時先生は55歳くらいかな?もうちょっと温厚な試験を高校出たばかりの大学一年生に出してもいいと思うけれど!先生の愛は、我々生徒たちに向けられたものではなく、美術史上の名画と歴史へと向けられたものであった。教科書は余計なことが多くて、伝えたいことがよくわからない。この試験内容こそが授業内容の真髄だった。佐藤先生、授業中にプリント欲しかったです!

by office-maki | 2018-02-07 10:34 | 日記 | Comments(0)

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